日日遊心

幸田露伴の歴史小説【運命】の現代語勝手訳その他。Done is better than perfect.無断転載お断り。

2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

幸田露伴「運命」16

【訳】 しかしながら、太祖の遺詔は考察すべき点もまた多い。皇太孫允炆は天下の民が心を寄せているので皇位を継ぐようにというのは何故か。既にもう皇太孫なのである。たとえ遺詔がなくとも皇位を継ぐのみであろう。わざわざ皇位を継ぐようにというのは朝廷…

インビジブル

今の時期、天気の良い日に散歩していると黒く丸っこい蜂がよくホバリングしてるのに出くわす。蜂は空中にふわふわ浮かびながらしきりにからだの向きを変え周囲を窺っているのだが、その機械的で精確な動きを観ているとあたかも何者かがこの蜂の目を通してこ…

幸田露伴「運命」15

嗚呼、何ぞ其言の人を感ぜしむること多きや。大任に膺ること、三十一年、憂危心に積み、日に勤めて怠らず、専ら民に益あらんことを志しき、と云えるは、真に是れ帝王の言にして、堂々正大の気象、靄々仁恕の情景、百歳の下、人をして欽仰せしむるに足るもの…

幸田露伴「運命」 14

太祖の病は洪武三十一年五月に起りて、同閏五月西宮に崩ず。其遺詔こそは感ずべく考うべきこと多けれ。山戦野戦又は水戦、幾度と無く畏るべき危険の境を冒して、無産無官又無家、何等の恃むべきをも有たぬ孤独の身を振い、終に天下を一統し、四海に君臨し、…

幸田露伴「運命」13

七国の事、七国の事、嗚呼何ぞ明室と因縁の深きや。洪武二十五年九月、懿文太子の後を承けて其御子允炆皇太孫の位に即かせたもう。継紹の運まさに是の如くなるべきが上に、下は四海の心を繫くるところなり。上は一人の命を宣したもうところなり、天下皆喜び…

打ちのめされるということ。

どんなことにも偉大なパイオニアというのはいるもので、こんなことしたのは自分が最初だろうと得意になってたら先人がとっくの昔にやっており、しかも自分よりはるかに上手にかつ徹底してやっていたのに気づいてがっくり、という経験がある。決して愉快では…

幸田露伴「運命」12

太祖が諸子を封ずることの過ぎたるは、夙に之を論じて、然る可からずとなせる者あり。洪武九年といえば建文帝未だ生れざるほどの時なりき。其歳閏九月、たま〳〵天文の変ありて、詔を下し直言を求められにければ、山西の葉居升というもの、上書して第一には…

幸田露伴「運命」11

建文帝の国を遜らざるを得ざるに至れる最初の因は、太祖の諸子を封ずること過当にして、地を与うること広く、権を附すること多きに基づく。太祖の天下を定むるや、前代の宋元傾覆の所以を考えて、宗室の孤立は、無力不競の弊源たるを思い、諸子を衆く四方に…