日日遊心

幸田露伴の歴史小説【運命】の現代語勝手訳その他。Done is better than perfect.無断転載お断り。

幸田露伴【運命】44

【訳】

燕王が挙兵して既に三年、戦いに勝ったといっても、得たのは永平・太寧・保定だけで、南軍は出没して止むことがなく、いったん得てもすぐに棄てなくてはならないことも多く、死傷者も少なくなかった。

燕王はここにおいて、ため息をついて言った、毎年毎年兵を使ってこれではいつ終わるかしれない、こうなったら長江まで行って決着をつけ二度と振り返らぬぞ。

その頃、都・南京の内臣に建文帝が厳しいのを恨んで燕王を帝にしたい者がいた。

その者は燕に告げ口して、南京は無防備です、隙に乗じてすみやかに兵を進めなさいとすすめた。

燕王はついに意を決して十二月になって北平を出た。

【原文】

王兵を起してより既に三年、戦勝つと雖も、得るところは永平・大寧・保定にして、南軍出没して已まず、得るもまた棄つるに至ること多く、死傷少からず。

燕王こゝに於て、太息して曰く、頻年兵を用い、何の時か已む可けん、まさに江に臨みて一決し、復返顧せざらんと。

時に京師の内臣等、帝の厳なるを怨みて、燕王を戴くに意ある者あり。

燕に告ぐるに金陵の空虚を以てし、間に乗じて疾進すべしと勧む。

燕王遂に意を決して十二月に至りて北平を出づ。 

 

【感想メモ】

・ついに決戦のとき、燕王は全軍を率いて北平より南下。物語は佳境へ。

・建文帝は洪武帝以上に宦官に対する取り締まりが厳しく、南京の宦官たちはそれを恨んで燕王に内通していたらしい。
陳舜臣「中国の歴史」より)