日日遊心

幸田露伴の歴史小説【運命】の現代語勝手訳その他。Done is better than perfect.無断転載お断り。

幸田露伴「運命」19

【訳】

帝のそばには黄子澄と斉泰がいて、諸国を削奪しようとする。また燕王のそばには僧の道衍と袁珙がいて秘謀を巡らす。両者の関係はもうこんな風で、~。諸王に不穏な動きがあるとの噂が朝廷に聞こえることが頻繁だったので、ある日帝は子澄を呼んで、昔、東角門で言ったことを覚えているかとおっしゃられた。子澄直ちに答えていうには忘れてなどおりませぬと。東角門で言ったことというのは子澄が言った七国の故事のことである。子澄が退くと今度は斉泰と議論した。泰が言うには燕は精鋭の兵をもち、大志を抱いております、まずこれの領地を削るべきです。すると子澄が言った、それはだめです、燕は前もって十分準備していますからすぐに削ることは難しい。まずは周からはじめ燕の手足を斬りそれから燕にとりかかったほうがよいでしょう。かくして曹国公の李景隆に命じ徴兵してすぐに河南に至り、周王橚及びその世継ぎの妃嬪をとらえ爵を奪って庶民として、これを雲南に追いやった。橚は燕王と同じ母親から生まれた弟だったので帝も昔からこれを疑い橚もまた陰謀を巡らしており橚の長史の王翰という者がたびたび諫めたが言うことを聴かず橚の次男で汝南王~有㷲の変があったということで追放された。実に洪武三十一年八月のことで太祖が崩御して、いくらも経たないときであった。冬十一月、代わりに王となった桂が暴虐で民を苦しめたので蜀に追放し蜀王と共にいさせた。

 

*訳の『〜』は不明な箇所です。

 

【原文】
帝の側には黄子澄斉泰あり、諸藩を削奪するの意、いかでこれ無くして已まん。燕王の傍には僧道衍袁珙あり、秘謀を醞醸するの事、いかでこれ無くして已まん。二者の間、既に是の如し、風声鶴唳、人相驚かんと欲し、剣光火影、世漸く将に乱れんとす。諸王不穏の流言、朝に聞ゆること頻なれば、一日帝は子澄を召したまいて、先生、疇昔の東角門の言を憶えたもうや、と仰す。子澄直ちに対えて、敢て忘れもうさずと白す。東角門の言は、即ち子澄七国の故事を論ぜるの語なり。子澄退いて斉泰と議す。泰曰く、燕は重兵を握り、且素より大志あり、当に先ず之を削るべしと。子澄が曰く、然らず、燕は予め備うること久しければ、卒に図り難し。宜しく先ず周を取り、燕の手足を剪り、而して後燕図るべしと。乃ち曹国公李景隆に命じ、兵を調して猝に河南に至り、周王橚及び其の世子妃嬪を執え、爵を削りて庶人となし、之を雲南に遷しぬ。橚は燕王の同母弟なるを以て、帝もかねて之を疑い憚り、橚も亦異謀あり、橚の長史王翰というもの、数々諫めたれど納れず、橚の次子汝南王有㷲の変を告ぐるに及び、此事あり。実に洪武三十一年八月にして、太祖崩じて後、幾干月を距らざる也。冬十一月、代王桂暴虐民を苦むるを以て、蜀に入りて蜀王と共に居らしむ。