日日遊心

幸田露伴の歴史小説【運命】の現代語勝手訳その他。Done is better than perfect.無断転載お断り。

幸田露伴「運命」28

【訳】

炳文の一敗は~、帝は炳文が敗れたのを知って怒って用いず、黄子澄の言に従って李景隆を大将軍とし斧鉞を与え炳文の代わりとしたので大事はほとんど去った。景隆は貴族のお坊ちゃんで趙括の類だったからである。趙括を推して廉頗を代えたこと。建文帝が帝位を保てなかったのは作戦上は全くこのせいである。炳文の子の璿は帝の父懿文太子の長女の江都公主を妻としていたが、璿は父が用いられなくなったのを怒ること甚だしかったという。また璿の弟の瓛は遼東の鎮守・呉高、都指揮使・楊文とともに兵を率いて永平を囲み、東より北平を動かそうとしたという。この二人の子の国を守ろうという意志の誠実なことがわかるであろう。

そもそも勝敗は軍人の常だ。蘇東坡のいういわゆる~も日に勝って日に敗れる者である。そうであるのに一敗したからといって老将を退けて驕児を後任に就かせた。燕王は手をうって笑い、李九江はお坊ちゃんだ、まだ~したこともない者に五十万の兵を与えるとは自ら墓穴を掘ったぞと言ったのは酷だとは言え本当であった。炳文を引き上げさせたのは実に嘆かわしいことだった。

※訳文中の〜は不明箇所。


【原文】

炳文の一敗は猶復すべし、帝炳文の敗を聞いて怒りて用いず、黄子澄の言によりて、李景隆を大将軍とし、斧鉞を賜わって炳文に代らしめたもうに至って、大事ほとんど去りぬ。景隆は紈袴の子弟、趙括の流なればなり。趙括を挙げて廉頗に代う。建文帝の位を保つ能わざる、兵戦上には実に此に本づく。炳文の子璿は、帝の父懿文太子の長女江都公主を妻とす、璿父の復用いられざるを憤ること甚しかりしという。又璿の弟瓛、遼東の鎮守呉高、都指揮使楊文と与に兵を率いて永平を囲み、東より北平を動かさんとしたりという。二子の護国の意の誠なるも知るべし。

それ勝敗は兵家の常なり。蘇東坡が所謂善く奕する者も日に勝って日に敗るゝものなり。然るに一敗の故を以て、老将を退け、驕児を挙ぐ。燕王手を拍って笑って、李九江は膏梁の豎子のみ、未だ嘗て兵に習い陣を見ず、輙ち予うるに五十万の衆を以てす、是自ら之を坑にする也、と云えるもの、酷語といえども当らずんばあらず。炳文を召して回らしめたる、まことに歎ずべし。