日日遊心

幸田露伴の歴史小説【運命】の現代語勝手訳その他。Done is better than perfect.無断転載お断り。

幸田露伴【運命】47

【訳】

燕軍の戦況は芳しくなく、王も甲をつけたまま数日起居したというものの、将兵の心は一つとなって士気は上がった。それに対し、南軍は連勝したにもかかわらず、士気は下がった。

天意と言うべきか、それとも時運と言うべきであろうか。燕軍が連敗したことが南京政府にも聞こえると、廷臣の中に、燕軍は今はもう北に帰ろうとしています、それなのに南京は無防備なままです、良い将軍がいなくてはいけませんと言う者がいて朝議で徐輝祖を召還なされたのである。

徐輝祖がやむを得ず南京に帰ってしまったので、何福の軍の勢いは弱まり、単糸線とならず、孤掌鳴りがたしの諺のように孤立してしまった。

これに加え、南軍は北軍の騎兵の突撃に備え塹壕を掘り、塁壁を作って営することが常であったため、兵は休息する暇が少なく、往々にして虚しく体力を消耗し、兵は疲れうんざりしていた。それに対し、燕王の軍は塹壕や塁壁を作らず、ただ部隊を配置し、隊列を作って門としていた。そのため将兵は陣営に来れば、すぐ休息することができたし、暇があれば王は猟に出かけて周辺の地勢を見て回り、鳥を得れば将兵に分かち与え、陣地をとるたび、得た財物を全て褒美として授けた。南軍と北軍の事情はこれほど違っていた。

一方は労役につくのを苦しみ、もう一方は用をなすのを楽しむ。両軍のこの差が勝敗に影響しないわけがなかった。

 

【原文】

燕軍の勢非にして、王の甲を解かざるもの数日なりと雖も、将士の心は一にして兵気は善変せるに反し、南軍は再捷すと雖も、兵気は悪変せり。

天意とや云わん、時運とや云わん。燕軍の再敗せること京師に聞えければ、廷臣の中に、燕今は且に北に還るべし、京師空虚なり、良将無かるべからず、と曰う者ありて、朝議徐輝祖を召還したもう。

輝祖已むを得ずして京に帰りければ、何福の軍の勢殺げて、単糸の紉少く、孤掌の鳴り難き状を現わしぬ。

加うるに南軍は北軍の騎兵の馳突に備うる為に塹濠を掘り、塁壁を作りて営と為すを常としければ、軍兵休息の暇少く、往々虚しく人力を耗すの憾ありて、士卒困罷退屈の情あり。燕王の軍は塹塁を為らず、たゞ隊伍を分布し、陣を列して門と為す。故に将士は営に至れば、即ち休息するを得、暇あれば王射猟して地勢を周覧し、禽を得れば将士に頒ち、塁を抜くごとに悉く獲るところの財物を賚う。

南軍と北軍と、軍情おのずから異なること是の如し。一は人役に就くを苦み、一は人用を為すを楽む。彼此の差、勝敗に影響せずんばあらず。

 

【感想メモ】

これはないわー。
なんでこんなデタラメを信じて徐輝祖を召還しちゃったのか。

納得いかんでしょう徐輝祖も他の将兵も。

誤報を流したのは宮廷の内通者の仕業かと思い、調べたがわからなかった。

確かなのは南軍は情報戦でも負けたということ。