幸田露伴【運命】38
【訳】
この戦いのはじめ燕王の軍が出発する際、道衍はいった、必ず勝ちます、ただ両日かかるだけです。
東昌から帰還すると、王は多くの精鋭を失い張玉が戦死したので少し休みたかった。
すると道衍はいった両日とは〜、東昌での戦いはもう終わりました、ここからは全勝するだけでしょう。
かくしてますます兵を募り士気を奮い立たせた。
建文三年二月、燕王は自ら書をしたため涙を流しつつ戦死した将卒と張玉を祭り、着ていた上着を脱いでこれを焼き、亡くなった者たちを追悼し言った、一本の糸といえども私の心を察してくれ。
将卒の老いも若きもこれを見てみな感泣して、王のために死のうと思った。
※訳文中の〜は不明箇所。
【原文】
初め燕王の師の出づるや、道衍曰く、師は行いて必ず克たん、たゞ両日を費すのみと。東昌より還るに及びて、王多く精鋭を失い、張玉を亡うを以て、意稍休まんことを欲す。道衍曰く、両日は昌也、東昌の事了る、此より全勝ならんのみと。
益々士を募り勢を鼓す。
建文三年二月、燕王自ら文を撰し、流涕して陣亡の将士張玉等を祭り、服するところの袍を脱して之を焚き、以て亡者に衣するの意をあらわし、曰く、其れ一糸と雖もや、以て余が心を識れと。将士の父兄子弟之を見て、皆感泣して、王の為に死せんと欲す。
【感想】
燕王は大敗から軍を立て直すのが上手い。
軍師の道衍はやはりただ者ではないな。
あまり表立っては出てこないものの、燕王を陰から支え、動かし、燕王も全幅の信頼を置いているようだ。
関係ないがこの時点での北軍と南軍の兵力差はどの程度なんだろうか。
開戦時ほどの南軍の圧倒的優位はなくなっていると思うのだが。